2007年 02月 28日
今春から記者になる後輩に
「講座」と言っても、正規の授業ではなく、簡単に言えば、マスコミ予備校みたいな感じである。講座の終了後、二まわりほども年齢の違う若い学生さんと、界隈の居酒屋で、あれやこれや、わあわあと話す。それがまた楽しかった。他の学校に呼ばれた際も、その学校の学生さんらとの交流ができ、私には大きな財産だ。
で、ありがたいことに、「ロンドンに来ましたから」と言って、わざわざ声をかけてくれる人もいる。過日も、そんな一人と数時間、歓談した。彼はこの春から、記者として仕事をすることが決まっている。
そういう若い人と話していて思うのは、「記者人生」の時間の短さだ。今の日本の新聞社やテレビ局だと、取材現場に居られるのは、おおむね40代半ばまでだと思う。早い会社だと、30代後半で現場を離れ、「デスク」になる。私がデスクになったのは、42歳。会社に入って、16年少々経過したときだった。たった20年足らずである。今は再び、自ら原稿を書く部署に就いているが、人事の巡り合せ如何によっては、そのまま管理部門などに異動してゆき、なかなか取材現場には戻れない。そういうことを予め考えておかないと、本当に、あっという間に時間は過ぎて行くのだ。
それと、もう一つ。取材現場で、どのくらい戦えるか、ということを考えるのも、とても大きな問題だと思う。
言うまでもなく、新聞記事であれ、テレビのニュース番組であれ、現場記者が取材した内容は、社内でデスクや編集者など種々のチェックを経て、世に送り出されていく。で、たいてい、チェックする側は、自分より年上であり、先輩だ。それらの経験は大事だし、経験豊富な目で内容を精査する仕組みも、組織としては当然だろうと思う。ただし、そういう経験は、時として、「古さ」と紙一重である。或いは、それは「固定観念」だったり、「経験に基づく思い込み」だったりもする。
だから、デスク時代は、ある種の「怖さ」みたいなものを感じていた。自分の発想や経験に基づいて原稿を修正したり、捕捉取材を指示したりするのだけれど、その元になった自分の考えが、実は現実社会と遊離しているのではないか、若い記者の方が的確ではないのか、、、という感覚だ。締め切りぎりぎりの、時間の無いときは、エイ、ヤッ、と原稿に手を入れて出してしまうしかないのだが、後で、ああ、現場の若い記者の考えの方が良かったな、と。そんな考えに至ったことも、しばしばある。
私ごときが偉そうに言う話ではないが、だからこそ、若い記者は、そういう現場で戦ってほしいと思う。原稿や番組、取材の方法、物事の見方・視点等々について、どんどん、モノを言うべきだと思うし、それを失ってしまえば、メディアの取材部門では活力が著しく減退する。いや、「する」というよりも、同業の仲間の話などを聞いていると、多くの職場では、もう、ほとんど、「既にそうなってしまった」という過去完了形である。
実は、1年半近くも前のエントリ、私は消息不明ではありません(笑)でも、私は似たようなことを書いた。組織が大きくなれば、それに伴って必然的に官僚化は進む。どんな組織でも組織である以上、それは致し方ないことなのだが、その結果、時として、「報道の理屈」よりも「組織の理屈」が上位に来て、その繰り返しの中で、活力が次第に失われてく、、、という感じだろうか。
上記に引用したエントリの中に、ある方のコメントを引用している。その方は、「プロがなぜ動けないことがあるかというと、それがまさにプロ(それで生計を立てているという最低限の意味において)だからなのですね」と指摘された。この言葉は、今思い返しても、含蓄が深く、当時から今まで、折につけ、思い出す。
物事は一直線には進まないし、「原理主義」はマイナスに作用することもある。何でもそうだが、自らの身を安全地帯に置いたまま、物事を批判するのは、容易い。問題は、現にそこに居る人が自分自身で、その立場に身を置いたまま、きちんとした議論ができるかどうかにある。だから、自分のできる範囲で、どんどん議論をしてほしいと思う。それなしには、何も進まないのだ。
一方、現実には、これほど複雑になった世の中においては、とくに、調査報道や大掛かりな事故事件取材、対象が広範に及ぶ分野の取材等では、組織力が、取材内容を左右する側面が、ある意味、ますます強まっている。それを上手に使えば、企業記者には企業記者なりの利点も依然として多いし、放り出すのはもったいない。問題はやはり、どういう風に報道を変えていくか、その方向をどう見極めるか等にある。
先ごろ、ロンドンで会った後輩には、そんな話をした。その前にロンドンを訪れた後輩にも、同じような話をした。来週は、また別の後輩が来る。春から記者になる彼にもまた、たぶん、同じ話をするだろうなと思う。
by masayuki_100
| 2007-02-28 03:54
| ★ ロンドンから ★