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ニュースの現場で考えること

調査報道について その2

前回のエントリ「調査報道について」の補足です。

少し誤解を招きそうなので、追加しておきますと、私自身は「自民党とNHK」(あるいは「政治と報道機関」)が築いてしまった癒着の関係、報道側が政治におもねる今の関係、といった部分に焦点を当て、そのおかしさを暴き出そうとする姿勢自体は、なにもおかしい部分はないと思っています。権力を監視することは、間違いなく報道の大きな柱の一つです。それは変わりありません。

今回の件でも、「なぜ番組内容が改変されたか」(番組内容を放送直前に変えたこと自体はNHK側も認めています)については、まだまだ検証が足りない。少なくとも、たとえば、当該の「戦争と女性への暴力」日本ネットワーク(VAWW-NETジャパン)が1月21日付けで出したNHK海老沢会長あての「公開質問状」があります。この問題の取材にかかわっている記者の方々(当然朝日新聞の方も)は、少なくともこうした疑問点はNHK側にぶつけていく必要があると思います。万が一、「VAWW-NETのやっていることはおかしいから」とか何とか言って、それを理由にこの種の質問をしない記者がいたら、それこそ偏見です。安部、中川両氏に対しても細かな事実関係について種々の齟齬が残っているわけですから、それを次々と聞いていく必要がある。当然のことです。



しかし、実際はたとえば中川氏の番記者たちはおそらく「先生、ほんと迷惑でしたよね」「朝日はひどいですよね」とかやっているのです(想像ですが)。そして、たぶん朝日の番記者はおそらく「あれは社会部が勝手にやったんですよ」というようなことを言っているのだと想像します。今回の問題に限らず、この種のことが起きると、必ず、擦り寄る記者と徹底追及に回る記者とに二分されてきます。しかも圧倒的に「擦り寄り」が多い。そうしたことを、私はずっと批判しているのです。「追及・北海道警裏金疑惑」という本やその他の論文等でも言い続けていますが、「記者の役割は政治家や権力側と仲良しでいることではない」ということに尽きます。

かつて田中角栄氏が総理だったときの金脈問題で、それを立花隆氏が文芸春秋で報じました。有名な話ですが、そのレポートが出た後も永田町の政治記者たちは無視を続けました。記者会見で質問することすらなかった。結局、外国メディアが立花レポートを取り上げ、それが日本に還流し、そこで初めて日本のテレビや新聞は金脈問題を追及する姿勢を見せ始めたのです。その最中、永田町の記者たちは「金脈問題なんか、知っていた」と言い、まれにその質問をする記者が現れると、総理と一緒になって奇異の目で見たそうです。こうした例はいまも数え切れないほどある。知っていて書かないどころか、プロの記者なのに知ろうとしない。それどころか、知ろうとして取材を続ける記者の邪魔をする記者がいる。まったく、どうかしています。

ただ、これも誤解しないでほしいのですが、前回の「調査報道について」で書いたことも含め、私が言いたかったのは、そういった取材の目指すべき方向と「取材の脇の甘さ」みたいな部分は別種の話だということです。取材対象者からすぐ反撃され、それに対して二の矢、三の矢を放てないようなら、それはどこかに取材の甘さがあったのではないかと。その取材の基本的な技術論みたいな部分に言及したつもりです。(もっとも本当の実践的な技術論は別のところにあるのですが、長くなるので、ここでは記しません)。

さらに言えば、以下のようなこともあります。1月 14日のエントリ『続・NHKへの「政治介入」』において、私はこう記しました。

この種の問題でいつも感じるのは、「言論の自由一般は封殺されない」ということだ。仮に、NHKへの「介入」が本当に「介入」だった場合、介入した側には明確な意図がある。それを見極めていかないと、問題の本質を見誤ると思う。なぜなら、言論の自由一般が強圧的・強権的に封殺されることはないからだ。かつて本島等・長崎市長が撃たれたとき、各新聞は「言論の自由が撃たれた」と一斉に書いた。しかし、撃たれたのは「言論の自由」というボンヤリしたものではなくて、天皇に戦争責任があると言った本島氏の具体的発言である。右翼の演説会が仮に集会の内容によって、会場施設側から「場所は貸さない」と言われたら(実例があったと思うのですが、思い出せず、かつ、探しきれませんでした。知っている方がいたら教えてください)、その主張が不当に狙い撃ちされ、排除されたのだ。

 言論一般が封殺されることは絶対にありません。それは昔も今の同じです。近々書こうと思っていたのですが、各地で頻発している「ビラ配布逮捕事件」も、当たり前ですが、ビラ配り一般が逮捕されたのではないのです。権力に批判する立場のビラだったからこそ、逮捕された。そうした場合に「じゃあ宅配ピザはどうなる?」といったことに焦点を当てる取材は、私は好みません。ピザのチラシは絶対に摘発されないからです。そんなこと、分かりきっています。それよりも「なぜ共産党のビラ配りが摘発されたか」を徹底的にその事件に焦点を当てて取材していくべきだろうと思うのです。
 当該の事件に関し、たとえば現場のサツ回り記者は署長らに対し「おかしいのではないか。なぜこの程度で逮捕したのか」という疑問を徹底的にぶつけていないと思います。種々のHPを見ていますと、「住居侵入だ!」と警察に通報した人はどうも警察関係者らしい。それを記事では「市民が通報した」と書く。で、想像だけれども、取材現場では最終的に「署長、ピザのチラシまでは摘発しないですもんね」などと言って、ビラ配り一般は守られたから、それでいいやと納得してしまう、、、、そんな感じではないかと思うのです。
調査報道について その2_c0010784_17453890.gif
by masayuki_100 | 2005-01-22 14:25 | |--調査報道について