2005年 12月 22日
バブル時代と年の瀬
そんなニュースの一方で、暗い話を投げかけるのは気が引けるが、「年末の株高」というと、どうしても、1989年(平成元年)12月を思い出す。同月29日、東京市場の日経平均株価は終値が3万8,915円87銭になり、史上最高値をつけた。私は当時、入社4年。札幌の本社経済部で仕事を始めて半年、駆け出しの経済記者だった。
あの頃の雰囲気は、今思っても異様だったと思う。ふつうの日刊紙も経済特集(というより投資特集)を争ってつくり、「マネー」という言葉が急速に一般用語になり始めていた。社内の先輩たちとワアワア言いながら、「年が明けて3月末、平均株価はいくらになっているか」と話していたことを思い出す。記憶では、「下がる」と言った人はほとんどおらず、「4万円」「4万5千円」といった景気の良い数字がポンポン飛び出していた。
私は、経済の「ケ」の字も理解していなかったが、当時、いくつかの出来事が妙に引っ掛かったことを覚えている。そのころの私の担当は「不動産・建設・リゾート」。いま覚えば、まさにバブルそのものが担当だった。
引っ掛かりの一つは、北海道東部のあるゴルフ場計画だった。本州企業の北海道支店で話を聞き、さて、記事にしよう、ホテル併設のゴルフ場計画なんて珍しくもないが、郡部にとっては地域振興の目玉だからな、自治体の首長さんも後押ししてると電話で答えていたし・・・などと思いながら、社内の調査室で調べものをしていた。当時は今のように、便利なデータベースなど存在しておらず、過去の記事を調べるには、調査部の方々が作成してくれている「切り抜き帖」くらいしかない。テーマごと、地域ごとの切り抜き帖を古い順に見ていたら、「××のレジャー計画、破産。ゴルフ場用地は放置」という記事があったのだ。1970年代後半の、当時から数えても10年ほど前の記事だったと思う。
「レジャー計画」(その頃はリゾートという言葉もなかった)破綻を報じる記事が指し示していた場所こそ、まさに「ホテル併設のゴルフ場計画」の場所とピッタシ同じだったのである。過去記事の写真に映った「××計画地」という看板の位置まで、新計画の看板と同じ位置だった。で、それが気になって、あれこれ調べていくと、リゾート計画の少なくない箇所が、「列島改造ブーム」のときの「頓挫したレジャーブーム」の計画地とまったく同一であり、それこそ、あちこちで蘇ったのである。
いや、正確には蘇らなかった。その北海道東部の計画も、そのほかのいくつかの計画も、結局は、リゾートブームの「ブーム」に乗れず、破綻し、会員権販売で多額の資金を集めた企業も消えた。で、残ったのは、土砂流出の保全工事すら出来ずに、工事途中で放り出された郡部の土地である。10数年の間に、同じことが2度も起きた・・・。おそらく、そんな土地は全国にたくさんあったのだろうと思う。
もう一つの「引っ掛かり」も、リゾート絡みである。当時、北海道のある測量会社を訪ねた。海外で300億円規模のリゾート計画を持っており、その話を聞くためだった。会社の名前は初めて聞いたが、別の全国紙は既に記事にしていたし、同じように書くのは嫌だな、違うポイントは無いかな、と思っていたことを覚えている。ところが、街の中心から離れた会社に着くと、私は大いに驚いた。300億円も投資する企業だから、大きな自社ビルがあるものだと思い込んでいたが、2階建ての小さな社屋しかない。「社長」に会っても、リゾートの哲学があるわけでもない。そもそも、長く測量会社の経営者だった人だ。古びた応接室で、リゾートの模型を見せられても、うーんと唸るしかなかった。銀行に聞くと、確かにうちが付いていますと言うし、原稿は書いたのだが、その会社はほどなく倒産してしまった。
今朝の朝刊には、<市街地の空洞化に歯止め、「郊外大型」の出店を規制へ>という記事も踊っている。大規模小売店舗立地法などの改正を進め、延べ床面積1万平方メートル超の大型小売店・商業施設の立地を制限する内容だ。郊外への大型店出店を制限して、空洞化の進む中心市街地の活性化を図る狙いだという。
バブル時代は、まさに規制緩和時代の先駆けであり、多くの開発物件が登場した。大店法の規制緩和もその一つで、各地域には郊外に大型商業施設が続々と登場。その一方で、駅前などの商店街は、どこも急速に寂れた。おそらく、流通業は大型のショッピングセンター時代が終わり、コンビニなどに時代は移った、だから、大店法はもういいよ、ということなのだろう。大型商業施設の廃止はいま、地域社会では大問題だ。旧来の商店街を「シャッター通り」にした大型店が、今度はその地域からも消える。全国、いや全世界を自由に動ける企業は残っても、核を失った地域社会は漂流をいっそう強めるのだろう。
by masayuki_100
| 2005-12-22 06:21
| ■2005 東京発■