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ニュースの現場で考えること

「破壊者のトラウマ」

この週末、広島は60回目の原爆記念日を迎えた。週明けの火曜日9日には、同じく長崎も60回目のその日を迎える。そんなタイミングを計ったように、一冊の本が届いた。

「破壊者のトラウマ」(未来社)。筆者の小坂洋右氏は、私の同僚・北海道新聞記者であり、いまは北海道の摩周湖に近い支局で支局長になっている。

「破壊者のトラウマ」は、原爆の開発に関わった科学者、ジョージ・プライス、そして、元空軍パイロット、クロード・イーザリー少佐(原爆投下に際し偵察機の機長だった人)を扱ったノンフィクションである。原爆に関わったパイロットと科学者。その2人が、その後、精神の異常をきたしたのだという。この科学者と軍人は、戦後、数奇な人生を歩む。共通項は、両者とも深い罪悪感から平和運動に身を投じ、そして、悲惨な最期を遂げたということだ。

遺族への取材、大量の参考文献を援用して、小坂記者は、加害者を襲った苦悩を淡々と、しかし、抉り出すように綴っていく。とくに、ジョージ・プライス博士の死の場面は、廃屋の荒涼とした光景が目に浮かぶようで、圧巻である。人の精神が、いかに脆く、崩れやすいかを目の当たりにしてくれる。小坂記者によると、プライス博士をきちんと日本に紹介した例は、これまで無かったという。

東京は最近、これ以上はないほど暑い日が続いている。たぶん、広島と長崎はもっと暑いに違いない。もうだいぶん昔のことだが、私はその暑い夏、何度か、広島と長崎に行き、原爆に遭遇した方々と話したことがある。そのときでさえ、かなり年を取られていた。私が不精だったため、その後は連絡が途絶えてしまい、その方々が今も健在かどうか等は分からなくなってしまった。でも、「どんな理屈を付けても、もう絶対に核兵器は使ったらいきません」「私が死んだら、誰がピカの話をできるのか」といった事を語っていたことは、この先もずっと忘れないと思う。

今年は「60年」という節目だったからだろう、広島と長崎に関する報道は、昨年より目立つ。でも、人々の記憶は確実に薄れる。数日前、テレビで見た原爆の被害者も「あと何年かしたら、語る人が居なくなる」ということを、それこそ、繰り返し繰り返し心配していた。

広島や長崎、或いは先の大戦が遠い昔のことになったとしても、またイラクのように戦火の場所が地球の反対側だったとしても、現実は現実である。バーチャル空間の絵空事ではない。だから、やっぱり、そういう事は、やはり、きちんと伝えていかなければならない、と思う。戦後60年が過ぎて、どこか好戦的な気分が広がっているように感じる日本では、その種の報道や出版は必ずしも売れないかもしれない。それでも、その種の作業を止めてしまえば、もう、私たちは過去から学ぶ術を失ってしまう。だから、社会全体の仕事として、「伝える」作業を中断させるわけにはいかないのだと思う。

小坂記者の著作も、その延長線上にある。
by masayuki_100 | 2005-08-08 01:12 | ■2005 東京発■