2005年 01月 01日
元道警最高幹部は何を語ったか(1)
2004年2月10日。 元道警釧路方面本部長の原田宏二氏が、札幌市内で記者会見した際に、告白文を配布しました。以下はその内容です。
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実態を明らかにする理由
これまで、いくつかの社から何回も、元旭川中央署長との理由で取材を受けました。その際、私がお話しするときが来れば、匿名ではない形でしたいとお願いをしてきました。監査結果が出た現在、それなりの立場にいた者が真実を話すべきときが来たと判断しました。皆さんからその無責任さを指摘されるでしょう。昔の仲間からも裏切り者とのそしりを受けるのではなど、ずいぶんちゅうちょもしましたが、その理由は次のとおりです。
(一)どんどん道警の信頼が失われていくなかで、現場の警察官やその家族の人はさぞ肩身の狭い思いをしているのではないでしょうか。一日も早く現場の警察官が誇りを持って仕事ができるようになってもらいたいと思うのです。今回が道警が更生できる最後のチャンスだと思います。
(二)少なくとも私が退職した平成七年まで裏金が存在し、組織的に行われていました。従って、今問題になっている旭川中央署の二人の元署長は、かつてともに仕事した仲間ですが、彼らだけが責められる問題ではなく、関与した全組織の幹部やOBも責任を負うべきだと思います。現在もこうしたことが行われているかどうかは、確認できません。
(三)在職中に地元出身の最高幹部の立場にありながら、保身と甘えと自らの力量不足から改善に積極的に取り組まなかったことに責任を感じ、長い間、後悔の気持ちが続いてました。かつて、道庁などの問題が明るみに出た際、道警のみが追及をのがれました。しかし、私がそうであったように、現職の皆さんに、真実を語ることを求め、改善を期待することはできないのかもしれません。だとすれば、OBの私が事実を公表しなければと思ったのです。
裏金はどのようにつくられていたか
対象は国費の旅費、捜査費、道費の報償費、旅費のほか日額旅費、参考人旅費などに及んでいました。これらの予算は四半期(道費は上期、下期?)に一度本部会計課から書面で内示されます。本部各課、警察署など各部署ではその金額(毎年ほぼ同じ)の範囲内で会計課(係)(本部では経理主幹や庶務係)が毎月これを消化します。その際、領収書などの支出に必要な書類が作られます。その金額に応じた小切手が本部から送られ、会計課が銀行で現金化します。(このあたりの手続きは正確ではないかもしれません)
これが、裏金として副署長(本部では管理官、次席など)に渡されます。副署長は現金を小型金庫に入れ、裏帳簿で管理します。裏金は全額が副署長の金庫に入るのではなく、その一部は本部へバックされると聞いていましたが、その割合などは知りません。
この間、署長(課長など)は一切決裁をすることはありません。裏金つくりは、ヤミの仕事で正規の手順はとらないのです。必要な会計上の書類は全て経理担当者がひそかに下書きを作成し、署員(課員)に記入を依頼していたようです。裏金は副署長(次席、管理官など)が管理し、署長は月一回裏帳簿に決裁をしてました。本部に還流する裏金の詳細は、副署長、経理担当者と本部会計課のみが承知していたようです。これに触れるのはタブーであったように思います。
一部の新聞に道警本部総務課長が裏金の金庫番で各部に上納を指示していたとの記事がありましたが、私の総務課長時代にはありません。また、私が在籍した道警本部防犯部には部長経費がありました。他の部でも同じと思いますが、私は課(隊)長として在籍していただけですから、私からは申し上げません。
いわゆるキャリアの方が、どのように関与されたかは、それなりの立場でのご判断があるでしょうから、申し上げません。防犯部では部の管理官が裏金を管理し、事務は経理主幹が担当、部長経費は部内の各課が拠出していました。警ら部門、交通部門などのパトロール活動をする警察官には日額旅費が支給されますが、その一部を部署の運営費(裏金)にするためピンハネしていたようです。この問題は釧路時代に是正しようとしましたが、釧路方面だけが全額支給するのは適当でないとの理由でできませんでした。
裏金は何に使われたのか
署長交際費、異動の際のせんべつ、部内などの懇親会費、冠婚葬祭費、タクシーチケットの支払い等が主たるもので、本部では上級官庁や他官庁の接待費や議会対策にも使われていました。防犯部長時代に自ら歳末警戒視察への謝礼の意味で道議会議員を接待した経験があります。そのほか、警察署では各課(係)には運営費が渡され、緊急事件捜査の際の夜食代や小額の捜査費用などに充てられていたようです。特別に、捜査などで必要となる費用(旅費、報償費など)は、課長などの申し出により副署長が裏金から現金で渡していました。署員の出張の際に作成されるべき(正規の)旅行命令簿に私が決裁した記憶もありません。
署長などの交際費について
署長などには交際費が必要でした。一般の警察行政的な情報は、部内部外の非公式ルートの情報がいります。他官庁、民間の方、OBや警察に協力していただいている方やマスコミの方とのお付き合いもありました。転勤を重ねるとお付き合いも増えます。当時、予算の上では確か署長の交際費はなかったと思います。正規の交際費を受け取った記憶がないからです。組織として、裏金からの支出に暗黙の了解をしていたことになります。旭川中央署長のときは、毎月五万円前後。本部長や部長のときには七-八万円と記憶しています。
旭川中央署の会計書類について
こうした書類は監査の際にしか見ることはありませんでしたが、様式は同じだと思います。領収書もそうです。私は決裁印を押した経験がないので、印鑑は経理担当者が押印していたと思います。
着任したとき、同じ印鑑が二本作られ一本は自分のデスクに置き日常の決裁用に、一本は副署長か経理担当者が保管していたようです。領収書の印鑑は経理担当者がたくさん保管しているものなどを使っていたようです。各部署の担当者間で互いに交換し合っていると聞いたことがあります。名前は、実在の人物は電話帳か何かを、実在しない人は架空だと思います。架空の名前を考えるのは大変で、時として同じになってしまうとこぼしていたのを聞いたことがあります。
私はさっと(問題の書類に)目を通しただけですが、一つ一つ詳細に検討して使用者などに説明を受けるとすぐ真偽がわかります。
「捜査上の秘密」が問題となっていますが、捜査の秘密を守らなければならないことは、法令上当然です。私はどうしても名前を伏せなければならないときは、捜査報告書にその旨を明確にしていました。偽名を使うことはありません。そんなことをすれば、捜査自体の信用性が疑われることになります。
実際に、協力者の存在が外部に漏れ、その方に危害が及びあるいは及ぶ恐れが生じた経験はありません。
国や道の監査対策について
記憶では二回監査を受けたことがあります。一回は昭和五十九年ころ生活課長のときに会計検査院の、二回目は旭川中央署か札幌西署のとき道監査を受けた記憶があります。いずれも、何の指摘も受けませんでした。監査対象は、先ほどの書類のほか監査用の出勤簿(二重帳簿)、旅行命令簿などで、捜査書類などは対象ではなかったし、最初から署員などの面接調査はしないことになっていました。道の監査は形式的で、署長は監査委員に概況説明をするだけ。国の監査は大変で、書類の付き合わせ、会計の証拠書類に見合った-言葉は悪いですが-架空の事件をデッチアゲ、そのメモ書きの作成などに数カ月かかりました。その間、警察庁や本部会計課の予備検査が行われ、普段は見たこともない書類の名称を覚え、正規の決裁の手順を知るため何回も予行演習した記憶があります。
領収書に偽名を使うことについて
私は聞いたことはありません。そうしたケースでは、書類に「領収書の提出を拒否した」と記入されていたと思います。偽名を使う旨を口頭で報告させるとすると書類上何も残らず、後の署長が監査を受ける際に説明ができません。署長交代後も監査がありますので明らかにしておかないと説明ができないではないですか? 私の体験では、報償費を正規に支出したことは一度もないので、そんな報告は受けたこともないのです。
裏金づくりはいつ始まったのか
こうした問題を耳にしたのは、昭和三十三年ころの札幌中央署です。出勤簿にまるで囲んだ「出」という印が押してあるので先輩に聞くと「あれは空出張」と教えてもらったのが最初です。かなりおおっぴらにやられていたのです。その後、数多く転勤しましたがすべての部署で同じことが行われていたのは紛れもない事実です。時には、ニセ領収書などを命じられるままに作り、茶封筒入りの現金を受け取っていました。せんべつももらいました。階級が上がるに従って受け取る額も増えていったのです。
こうした仕組みは、私が道警に入る前からと思われ、始まりは知る由もありません。昔は、警察に協力するのは当然という考えが支配的であり、警察にも情報を買うという発想は警備公安警察以外は乏しく、優秀な捜査員は畑と称する自腹の協力者を持っていました。しかし、時代の変化が進むにつれ次第に情報が取れなくなってきました。しかし、すでにこうした費用が別の目的に使用されるシステムができあがり、現場まで報償費が十分下りていかないことになりました。その上、協力者を組織的に管理するシステムが確立されず、これを使う能力のある捜査員も育てていかなかった。稲葉元警部の問題は単なる個人の過ちではなく、こうした点にも要因があったと考えています。かつての優秀な現場の部下たちが命を絶ち、病に倒れ、職を失い、重い処分を受けました。
道警に対して期待すること
私はこの問題が出てから、(芦刈勝治)本部長が議会で質問に顔をそむける姿をテレビで見て正視できませんでした。(佐々木友善)総務部長はかつて、ともに仕事をした仲間ですが、立場上彼が世間の常識では通用しない答弁をしているのを聞き、気の毒で、先輩として申し訳なく思いました。私の発言で彼が苦しい立場になるのではと心配ですが、道警の更生のため努力してほしいと願っています。
かつて、こうした問題を内部に抱えながらも、道警では毎年重点目標を決めていました。その基本は「道民の期待と信頼に応える」ことにありました。しかし、現在は空々しいものに感じます。
四月には、新人が警察学校の門をくぐります。時代は変わっても警察官を志す若者は「社会正義のため」と希望に燃えていることでしょう。かつて、私もそうでしたように。しかし、三十八年の間に手を汚してしまいました。
現在はこうした不正行為が行われていないことを祈っておりますが、過去にこうした行為が組織的に行われていたのは事実で、それが今回明るみに出た以上、私たちOBと現職幹部は事実を認め、道民に謝罪しなければならないでしょう。そして、道庁などの問題に際し、現職とOBの人たちがそれを返済したことを見習うべきではないでしょうか。組織に人格はありませんが、構成員あるいは構成員であったわれわれにはあります。私に続いてくれる人が一人でも多いことを願っています。

by masayuki_100
| 2005-01-01 16:57
| |--元道警幹部らは語った