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ニュースの現場で考えること

■イラク問題での欧州の対応 by外務省元幹部

■イラク問題で欧州はどう対応しているのか。
以下は、最初は元外務省局長(在欧州)からのメールです(一部略)。


(1)つまるところ、米欧の対立の根っこには「サダム独裁」に対する
危機意識の差があるように思われる。アメリカにとって「サダムの独裁
」は、9/11以降、米国の安全保障に対する直接の脅威であり、アメ
リカの体現する価値に対する許し難い挑戦ということになった。少なく
とも、現政権、そのネオコンと言われる指導部はそう認識するに至った
。サダム独裁が国際テロリズム、大量破壊兵器と連結して認識される以
上、アメリカ自身の安全保障に対する脅威を取り除くために、これまで
の国際法では許されない先制攻撃の対象たりうるというのが米国の認識
である。大陸欧州には、「サダム独裁」に対するそこまでの危機意識は
9/11の後にも生じなかった。「サダム独裁」は欧州の安全保障を直
に脅かす危険とはついに大陸欧州では認識されなかった。これが大陸欧
州の反応の根っこにあったと思う。

(2)他方、「サダム独裁」によるイラクの人権抑圧と大量破壊兵器の
保有は許せないということは欧州の概ねのコンセンサスでもあった。し
かし、それでは、99年に、欧州は「ミロシェヴィッチの独裁」をたた
くために、国連決議無しで、セルビアの攻撃に踏み切った。NATOが
動員され攻撃の主役は米国になったが、音頭をとったのは、むしろ英国
を始めとする欧州だった。欧州は「人権擁護」のためにアメリカよりも
極的にセルビアを攻撃したのである。今度は欧州がずっと腰をひいた。
何故だろう。セルビアの人権問題は、欧州内部の問題だった。欧州はこ
れを看過できなかった。イラクの人権問題は、セルビアの人権問題に較
べれば欧州にとって遠かった。ドイツがコソヴォに軍隊を派遣しておき
ながら「攻撃されない限り攻撃すべきでない」と言って対イラク戦争絶
対反対を言っているのは、イラク問題がドイツの安全保障とは無関係と
認識されていることに加え、イラクの人権問題は、従来の国際法の枠を
こえてまで解決すべき問題とは全く認識されていないからだ。(この点
は、実はアメリカにとってもそうなのだが、アメリカにとっては、9・
11以降サダムとの闘いは、「イラクの人権」のための闘いなのではな
く、アメリカの安全保障のための闘いになった以上、先制攻撃は完全に
ゆるされることになったのである。)





(3)更に、イラクの国内情勢は三勢力相争い、サダム外しだけではか
たのつかない複雑さがあるという中東についての認識についての自負が
あった。イラク問題は、「サダムフセイン対民衆」という図式だけで把
握解決等できないという問題意識である。実際イラクの三つの勢力間で
どういうふうに「民主的な」仕組みをつくっていくのか、気も遠くなる
課題が浮上している。また、アラブ、イスラム、少なくともその過激派
の中で固定化するであろう反米世論にどう対処するのか、今後のアラブ
・イスラム世界との気も遠くなる対立の構図についての予感もあったで
あろう。

(4)以上の背景の下にアメリカの一極支配に対する反発が登場する。
この点は、アメリカとしては、冷戦終了後の一人勝ちという状況下で、
9/11の後の米国史上前例の無い米国自身の安全保障上の危機感が発
生し、有無を言わずに攻撃に踏み切ったわけだが、根っこの危機感を共
有しない以上、欧州がこのアメリカの「有無を言わせぬやりかた」に賛
成するはずがない。仏独露は、冷戦終了後の国際社会の覇権争いの中で
米国の一人勝ちを許さないための利益の一致が生じたのである。国際社
会の秩序という観点からは、「アメリカだけに適用される行動様式」と
「世界のその他の総ての國に適用される行動様式」の二つを是認せよと
言うことは、仏独露には認められない議論なのであろう。ロシアも「ア
メリカの一極主義反対」という国民世論のコンセンサスからしても、中
東に対する権益という意味からも、欧州陣営に加わらざるを得なくなっ
たのであろう。

(5)いずれにせよ、ヨーロッパは正念場を迎えているように思える。
20世紀の二つの大戦をその領土内で行った大陸として、平和の意義は
自分たちの方が感得しているという自負もある。アラブ・イスラム世界
との間で発生する亀裂に対してどう対処するかは、欧州の課題であると
いう自負もある。更に、アメリカの強さに対する冷静な読みがあり、ど
こで手を打っていくべきかは仏を含めて皆真剣に検討中なのであろう。

(6)さて私の一番の気掛かりは、日本の対応についてである。日本が
*第一次湾岸戦争以降国際社会から孤立してはいけないという論理に立
ち*日米安保と集団的自衛権不行使という日本の安全保障の基本的枠組
みの中で*また、当面「北朝鮮」という解りやすくかつ現実の脅威を抱
える中で、ぎりぎり「ブッシュ支持」の基本線を維持していくことは私
は、現在取りうる最善唯一の基本政策のように思える。しかしながら、
この支持の範囲とやりかたについての舵取りの中に日本の外交力がある
わけで、その観点からは、いくつかのコメントがある。一つは、2月1
4日に国連決議の必要性を言い始めたのは、「国際社会対イラク」とい
う構図をつくる上でギリギリの努力をしたとは言えなかったのではない
かという点(この点はカナダの外交努力が想起される)、もう一つは、
集団的自衛権は行使しないという前提にたっても、なおかつ工夫の余地
のある戦争中及び戦後の自衛隊の派遣について何をこれまでになし、今
後何をするかという点である。仮に国連決議が成立してイラクに軍隊が
いく事態になったときに日本は後方支援にもいけなかったであろうとい
う問題がある上に、戦争終了以後の復興の過程の中で日本は何をするの
か、新法をどうするのか、新法による自衛隊の派遣は国連決議を前提と
するのか、国連決議の無い戦争を支持しておきながら戦後になって国連
決議が出来なかったらなお日本は自衛隊を動かさないのかといった問題
について、日本はどうすべきかという問題である。それらの問題に、日
本はまだ真剣な回答を示していない。

(7)もう一つの私の気掛かりは、本件をめぐる日欧対話のレベルにつ
いてである。過去半年の欧州の議論は、それなりに、各国とも必死のも
のがあったわけで、イラク開戦までにどこまでそれぞれの国策について
意見交換をなしえていたかが、国際問題について真に成熟したパートナ
ーたるゆえんではなかったか。川口大臣が確か訪欧し、月末には小泉総
理も訪欧するのは、大変結構であるが、戦後復興に話が移る前に日欧が
千載一遇の機会を逃したのでなければよかったなと思っている。
by masayuki_100 | 2003-04-18 17:38 | ■政治・経済・国際