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ニュースの現場で考えること

そのとき、記者は逮捕された

(以下は実話である。もちろん、肝心の要素はいくつかボカシている。ここに記すかどうかということ自体で、ずいぶんと悩んだ。しかし、こうした「事件」を闇から闇へと追いやることは、決して得策ではないし、日本のメディア全体の問題なのだ)

昨年秋のことだ。

道外のある警察記者クラブに所属する30代の記者が、ある夜、事件関係者の自宅に取材に出掛けた。警察による立件が間近に迫っていた時期だ。

時刻は午後7時半ごろ。記者が玄関のインタホンを押したが、返事がない。そこで、しばらくインタホンを押したり、少し中を伺うようにしていたという。そのとき、どこからか民間警備員がやってきた。何をしているのかと聞かれたものの、それを説明すればその家が事件関係者だと分かってしまう。すると、警備員があらかじめ呼んでいたのか、ほどなくしてパトカーが2台到着した。バラバラと警察官が降りてくる。

その記者は警察担当であり、いわば「仲間意識」で警察官に事情を話し、記者証(通行証)も提示した。ところが、警察官は「ちょっと、来るだけ来てもらえないか」と言う。そして記者は、警察署にパトカーで同行した。たぶん、それが夜8時過ぎだった。署内で記者は時折、談笑もしたと言い、険悪な雰囲気は何も感じなかったらしい。

ところが、その後、警察官は調書を取り始めた。そのうち、「住居侵入で被害届けが出た」と知らされた。完全に「被疑者」としての扱いである。「帰ろうと思えば帰れたと思う」と記者は振り返るが、一方で「それを言い出せる雰囲気ではなかった」とも言う。何回か調書を取り直し、これでいい、という段階になったのは、午前3時過ぎだったと記者は記憶している。部屋(取調室?)から出て行くと、署のロビーにデスク(上司)が居た。特段の抗議もしなかったらしい。「きょうはこんな時間になったから、出社は午後でいいよ」と言われ、記者は帰途についた。




翌日。この記者は、警察担当を外された。その際、会社の上司たちは「警察から君を担当から外せと言って来た。それも上の方からだ」と言った、というのである。

その後、記者は住居侵入容疑で書類送検され、不起訴になった。一方、会社側は緘口令を敷くと同時に、記者に「口外無用」と念押しし、返す刀で、この記者を処分してしまう。理由は「不祥事があった」ということらしい。記者自身は当日のことを「逮捕」だとは思っていなかったのだが、いわゆる民間人(=警備員)による「常人逮捕」であり、民間人が住居侵入の現行犯として記者を捕まえ、警察に引き渡した、ということらしい。しかも同じ記者クラブに所属する他社の記者も、薄々事情は分かっているらしい。

インタホンを押した記者の行為が、どの程度だったのか、仔細には分からないが、少なくとも「不起訴」になる程度のものだった、との指摘は出来る。記者に対し、「業務」でその仕事をやらせたずの会社は、警察の行為に対し、何の抗議もしていない。この事件の数ヵ月後に起きた「写真週刊誌 フラッシュ」の逮捕では、光文社は誌面上でも堂々と警察に抗議した。

いったい、この「事件」は何なのか?

記者の取材活動が逮捕の対象になる。
警察が「あいつを担当から外せ」と言ってくる。
それを会社が受け入れてしまう。
そして会社は記者を懲戒処分にし、全員に緘口令が敷かれる。

これは、いったい何なのか? 
by masayuki_100 | 2005-06-21 08:28 | ■社会