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ニュースの現場で考えること

隠し撮り・隠し録音

少し前の「NHK・朝日新聞問題」の際、朝日新聞側が取材で隠し録音をしていたのではないか、ならば断罪・万死に値する、といった議論があった。朝日新聞自体は、内規でそれを禁じているようなので(事実誤認ならば、ごめんなさい。詳細は承知していないので、ご存知の方が居れば教えてください)、その内規に沿って、記者が処分されたこともある。

ところで、テレビではよく、事件で被疑者が逮捕された際、「○○容疑者」などというテロップとともに逮捕前の被疑者の映像が流れる。たいていは、単に街を歩く姿だったり、クルマに乗り込むところだったり。つまり、逮捕前の様子をテレビ局側が勝手に撮った映像を勝手に流しているのだ。撮影の技術的なことは良く分からないが、たぶん、超望遠レンズで、物陰や張り込み用車両の中から、こっそりと、無断で撮影しているのであろう。ふつう、これは「無断撮影」と呼ぶ。この手法が大きな問題にならないのは、捜査当局の立件後に放映するためであり、要するに当局の権力をバックに、「溺れる者は叩け」式に行動しているからではないか。当局と一緒になって、視聴者も巻き込み、「悪いヤツ」の人相を鑑賞しているのだ。

で、「録音」である。

録音についての的確な論考は、ブログ・情報流通促進計画さんの「BBCが隠し撮りをするとき」、山岡俊介さんのブログ・ストレイドッグの「朝日記者のテープ録音は違法でも何でもない」が参考になる。山岡氏は概要、「身の安全のため隠し録音することはある」と言っている。おそらく、私のような会社員記者には及びもつかないような、厳しい局面が何度もあったのだろうと思う。

もちろん、取材先との関係を考えれば、「取材」は「取材」として堂々とメモ帳なり、録音機などを取り出して目の前で見せ、取材行為であることを十二分に認識してもらうのが常道である。しかし、なかなかそれで済まない場面があることも分かる。

私自身は相当に「調査報道」をこなしてきたつもりだが、自分自身が隠し録音をした経験は、実は全くない。たいていは二人ペアで取材に行き、相棒にメモを取ってもらうやり方だった。録音するときは、堂々とテープレコーダーをテーブルの上などに置いて取材した。隠し録音したい衝動にかられたことは何度もあるが、私が現場で走り回っていたころは、小型録音機の性能もそんなによくなくて、テープの終わる「カチッ」という音が聞かれるのではないか、といったことが気になり、それをやろうとは思わなかった。隠し録音をしなかった理由は、今思い返してみても、その程度のような気がする。

それともう一つ。テープに頼ると、相手を詰めきれなく惧れも感じていた。相手が狙い通りのセリフを吐いても、それが単なるセリフ(言葉の断片)だったならば、意味は無いと思ったからだ。質問の言葉を変え、何度も何度も、事実上同じ事を質問する。その過程で取材相手には「あいつにしゃべってしまった」という明確な自覚ができる。そうなると、記事が出た後に前言を翻すことは、案外できないものではないか、と思う。山岡さんのような、真の意味での社会の裏側に迫る取材を経験していないからかもしれないが、そんな感じを抱いていた。そして、そういう調査報道は、恐ろしいほどの時間と手間がかかるのだ。ある役所首脳の不正に関する取材では、当該役所の元幹部に都合10回ほど、1回3時間程度の取材を繰り返したこともある。その取材すらも、不正の全体像から言えば、ジグソーの一部分に過ぎないのだ。
by masayuki_100 | 2005-05-31 15:35 | ■ジャーナリズム一般