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ニュースの現場で考えること

退社の理由はひと色ではない

「北海道新聞を退社しました」とのお知らせをメールで送ったり、その挨拶で知人の方々を訪ね歩いたりしていると、ほうぼうで「やっぱり、あれですか、あの件で?」との質問を受ける。北海道警察の裏金報道を手掛けた後、道警の元総務部長である佐々木友善氏が名誉棄損で私や出版社などを訴え、先頃、その判決が確定した。それが「あの件」である。

上告していた「北海道警察裏金本訴訟」は、私の退社直前に最高裁が上告を退ける決定を下した。もっとも、最高裁の決定は今年秋ごろだろうと予測していた。最高裁決定と退社時期との時期的な近似は、偶然に過ぎない。退社はもっと早くに、大震災発生直後の日々の中で最終決断した。

しかし、裁判やその帰趨がどうであれ、それだけでは辞めようとは思わなかった。

有り体に言えば、未曽有の大震災が起き、原発事故が日々深刻さを増している中、それ以前と同じような感覚、態勢、視点で報道を続けていく勤務先の新聞社の姿に、表現のしようがないものを感じたからである。原発事故報道に限らず、既存大メディアへの批判が止む日はないが、私自身は、昨今の大メディア批判は「組織のありよう」「組織と個人」の問題に行き着くと感じている。新聞社をはじめとするメディア企業は、保守化・官僚化した。それが極まった。「個々人には真面目な、真摯な人もいる」との指摘が事実だとしても、集団として時代を切り開いていくことができないのであれば、それは「官僚的組織」としてマイナス評価を下すしかない。

昨日は、中央省庁の幹部だった方とランチを共にした。ある一時期、日本の進路を決定するような問題を牽引していた方である。人生の先達でもある元幹部も、私と同じような認識を示していた。わずか2-3年で異動するポスト。それを必至で守ろうとする中堅職員や幹部。外に向かっては「ちゃんとやっているぞ」との姿勢を示しつつ、その実は何も事態を動かさない・動かせない日々。「役所うや新聞社だけでなく、日本のあらゆる組織で同じこおが起きている」と彼は言う。そして「このような集団はある一定の条件下ではもの凄く強味を発揮する。しかし昨今のような社会の状況下では、社会の衰退に手を貸すだけである」と付け加えていた。

だから、「あの件で辞めたのですか」との問いに対する回答は、ひと色ではない。

会社員が「もう辞めたいな」などと思うのは、日常茶飯だろうと思う。そして時々、それをスパッと実行する人がいる。実にまぶしい。そして、私を直接知る人は「仕事が面白い。天職だ」と言いつつも「会社を辞めて違うことをやりたいな」と言う姿を、それこそ、もう10年以上も見せつけられてきたはずである。

ただし、「あの件」と退社が全く無関係だったかと言えば、それも嘘になる。「あの件」とは、いったい何か。というより、何だったんだろうな、と思う。その中身については、すでに、いろんな方々がいろんなところで書かれている。自分も書いたり、喋ったりしている。こんなややこしい話に興味のある方がそうそういるとは思えないが、今もよく質問を受けるし、ネットでもあちことで読むことが可能だから、以下に一部を紹介しておく。

*原田宏二氏 「メディアは権力を監視できるのか」 そのPDF版
*朝日新聞の元論説委員、柴田鉄治氏 「北海道新聞はおかしくないか」
*岩上安身氏との対談 高田は「記者会見・記者室の完全開放を求める会」の世話人として出演 ブログ「世界の真上で」内にテキスト版
*月刊誌「マスコミ市民」上での対談 「北海道警裏金問題の報道をめぐる裁判とジャーナリズムのあり方」

きょうも東京は猛暑のようだ。ホテルの窓から見ると、文字通り、空には雲一つない。きょうはこの後、暑い東京から、さわやかな札幌へ戻る。
by masayuki_100 | 2011-07-11 10:37 | ■2011年7月~