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ニュースの現場で考えること

開示請求と取材

昨年11月の、少し古いニュースだが、外務省が機密費を使って会計検査院職員(院長を含む)らと会食を行ったことが判明した、というニュースがあった。当時の記事は、WEB上のここで見ることができる。裁判の結果、最高裁が開示せよとの判断を下し、それによって開示が実現したものだ。

これに関する開示請求を行ったのは、東京のNPO法人・情報開示市民センターである。そのHPのトップページを開き、「トピックス」内に書かれている<端数のない巨額のおかしな支出(4件)><「間接接触」の官官接待や議員接待の一例(3件)><「間接接触」開示文書58件の概要 (09.11.12)>などをたどると、開示された本物の書類を閲覧することが可能だ。

この種の開示資料にあまり縁がない方は、このページを開くと、おおおおと驚かれると思う。書類作成の日時等を除いて、真っ黒に塗り潰された書類がいきなり目に飛び込んでくるからだ。本当に真っ黒なのである。この種の黒塗り書類を見るたびに思うのは、仕事とはいえ、この黒塗り作業をさせられる職員の方々はいったいどんな気持ちなのだろうか、ということだ。仕事は仕事と割り切ってたんたんと塗り潰しているのか、ばかやろうと上司や開示請求者への怒りを伴いながら塗り潰しているのか。はたまた、(公言はできないけれども)情報開示の範囲のあまりの狭さに義憤を感じているのか。

ところで、このような黒塗り資料が出るたびに思うのだけれど、苦労して開示させた資料だということもあって、多くの場合は、開示された公文書の記載事項を事実だと思ってしまう。公文書だから、記載事項が真実であると思うのは当然かもしれないし、「知られたくない事実」が書いてあるからこそ、役所側は徹底抗戦して公文書開示を拒んでいたのだろうと考える。

そうかもしれないが、実は、そうではない例もかなり多い。それが私のこれまでの種々の取材での実感である。

ずいぶん昔のことで恐縮だが、1990年代の半ば、北海道庁裏金事件というものがあった。地方の役人が予算獲得のために中央省庁の役人を税金で接待しているという「官官接待」問題に端を発し、道庁のあやゆる部署で、食料費や会議費、出張旅費などの経費を裏金にしていたことが発覚した、という事件である。道庁側は最終的に、裏金総額は1994、95年の2年間で74億円に上ると認定し、幹部職員が分担して返還するなどして弁済もされたが、だれも刑事訴追されなかった。そういう事件である。

そのときの取材でこんなことがあった。開示請求した山のような書類をあさっているうちに、知事関連の経理書類にこんなものを見つけた。記憶がおぼろげだが、簡単に言えば、知事が東京へ出張して宿泊していたのと同じ日(これは旅費の精算書類等で判明)に、札幌の飲食店で別の官庁幹部らとの情報交換会に出席していた(こちらは食料費の支出書類などで判明)ことが分かったのである。

東京で宿泊した晩に、札幌で夜に会食することは不可能だ。どちらかが虚偽に決まっている。「カラ出張」か「カラ会合」か。そんな取材をしつこく進めていると、道庁のある大幹部と大げんかになり、その幹部が勢い余ってか、猛然と怒りをぶつけてきた。「君は、文書(の記載)を信じているわけじゃないだろうな! あんなもの、適当につくってるんだよ!」。大幹部は、だから知事は何も知らない、ということを強調したかったようだが、仰天したのはこっちである。

当時は情報開示制度が始まったばかりで(国ではまだ未導入だったと思う)、苦労して山のような書類を取った。その書類は黒塗りだらけである。塗り潰されていない部分をつなぎ合わせ、ようやく矛盾を見つけたと思ったら、そもそも記載事項がテキトウだったと言うのだから、ええええ、である。

このほかにも、確かに「官」が「官」を接待する事例はあった。「官官接待」はあちこちで発覚し、全国的な問題にもなった。しかし、それが良いことか悪いことかは、いわば「評価」の問題である。地方が予算獲得のため、中央省庁の高級官僚から情報を取得し、某かのことに役立てようという理屈は成り立ちうる(私は賛成しないが)。しかし、「官官接待」そのものが架空だったとしたら、どうだろうか。

道庁裏金事件も最初は、官官接待問題として浮上した。ところが、開示書類を丹念に調べていくと、おかしな点がいくつも見つかった。昼間から仕出し店の高級弁当を取り、夜はホテルや高級店で宴会。年度末になると、そういう「官官接待」が急に増えていく。書類に沿えば、そういう飲食が連日のように続くのである。こんな日々が続けば、幹部はたいへんだ。連日連日では体も持つまい。糖尿病まっしぐらである。人間、本当に毎日のように、そんなに飲み食いできるのか?

そういう疑問を念頭に調べていくと、「官官接待をやったことにして」、税金を不当に支出していたことが判明してきた。ホテルや飲食店に、架空の請求書を出してもらい、その金額に見合うカネを相手側に支払う。部内では架空請求書をもとに、官官接待をやったことにする。ホテルや飲食店側には役所から「預かった」形の資金が大量にプールされる。役所の人たちは、それらの店で自分たちの飲み食いを行い、その都度、その預け金を取り崩す形で実際に支払う。そういう仕組みである。飲食店側からすれば、架空の請求書発行による入金の段階は、「預かり金」であり、実際の飲食があって初めて売り上げが立ったはずだ。で、年度末などになって、預かり金が余った場合などは、クーポン券などにして役所側にカネを返すのである。そして、役所側はクーポン券を金券ショップなどで現金に換える。。そんな習わしだった。あるホテルの場合、会計システムの中で特別のコードを使い、道庁からのカネを管理しているケースもあった。

もちろん、実際に行われた官官接待もあったし、2万人の道庁組織を相手に限られた数の記者で調べを尽くすことはできなかった。ただ、途方もない巨額な税金の闇みたいなものが実感でき、いったいこれは何なんだろう、と立ち竦むような感覚を抱いたことは忘れ得ない。同じようなことは、警察の裏金問題にもあって、それは、「捜査協力者に謝礼を払ったことにして」(実際は払っていないのに)、捜査費を裏金にしてしまう、という仕組みだった。警察関連の会計書類は仮に開示されたとしても、そこに書かれた氏名などはふつう黒塗りになるが、記載内容自体がたいていは虚偽なのだから、書類開示の段階で取材が止まっていれば、解明は前に進まない。

話は変わるが、少し前、会計検査院が国から地方へ支出された補助金等について不正経理があったとの指摘を行ったことがある。「不適切」として指摘された地方側は、あれこれと弁明につとめたが、そうした中で明らかになった「預け」という実態も、だいたい上記の仕組みと同様である。

その検査院関連の取材を担当した他社の記者と、この話題で議論したことがある。彼が担当する県庁側は、「確かに補助金では使えないはずの用途に使いました。申し訳ありませんでした」と幹部らが会見し、文具やパソコンなど仕事で必要なものを次々買っていたと釈明したそうだ。で、ここからがようやく本題なのだが、「陳謝」を伝えるだけでは取材は終わらないはずなのだ。文具を買ったというのなら、どんな文具をいくつ買ったのか、パソコンは何をいくつ…。そうやって、細かな事実をしつこくしつこく詰めなければならない。仮に100万円で目的外使用し、実際は文具を買ったとしても、100万円分の文具なんて、大変なものだ。ボールペンならいったい何本になるか。場合によっては、それらの実物を見せてくれ、ということも必要だろう。

会計検査院の指摘に伴って、各地では、今も「預け」が行われていたことが判明している。この種の問題は半ば永久に消え去らないのかもしれないし、半永久的ないたちごっこが続くのかもしれないけれど、面倒くさがらずに、この種の取材・報道はしっかり続けないといけない、と思う。そのスタート地点は「開示文書の記載を全面的に信用するな」「発覚後の最初の釈明を信用するな」である。
by masayuki_100 | 2010-01-24 16:47 | 東京にて 2009