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ニュースの現場で考えること

「彼」は怯えている

(以下の話は事実だが、「彼」の属性等はいっさい明らかにできない。)

彼が事件にかかわったのは、十数年前のことだ。まだ若かった。何人かで女性を取り囲み、乱暴を働き、それが事件となった。「何人か」はいずれも警察に逮捕され、所定の手続きを経て有罪となり、彼も刑に服した。彼自身は「自分は脇役だった」との思いもあったが、この際、そんなことは関係ない。被害者にとっては、彼も「何人か」も同じ狂犬であったし、彼も脇役だったからといって、何かを許してもらおうと思ったわけでもない。

出所後、彼は懸命に働き、事件の記憶も遠のいていた。

その「彼」には、すでに家庭があり、子供もいる。きちんと働き、職場で一定の評価も得ている。だが、彼は「怖い」と、怯えている。奈良県の幼女殺害事件をきっかけに、「性犯罪者」情報公開の動きが急速に高まってきたからだ。法務省と警察庁の動きを詳しく承知しているわけではない。それでも、「もしかしたら、自分の過去が周囲の人に知られてしまうのではないか」と、突然、心配になったという。いまの職場の人はだれも、自分の過去を知らない。彼自身は事件を悔い、法に定められた刑に服し、そして更生したと思っている。それなのに、今になって、「過去」を暴かれるのだろうか、と。



彼は、自分の過去が周囲に知られた場合、職場は追われるだろうと感じている。昔のこととはいえ、職場の人々は間違いなく、自分から遠ざかる。「気にしないよ、昔のことだろ?」と言う人がいたとしても、それは表面上のことでしかあるまい、と思っている。彼は本当に苦しいのだ。考え始めたら、どうしていいのか分からない。毎日、ニュースを見聞きするのも怖い。いつ、新聞に「性犯罪者の情報公開、決定」という大見出しが踊るか、分からない。それは、明日かもしれないし、明日ではなかったとしても、近い将来、そうなるかもしれない。そういったことを考えると、激しく落ち込み、不安になり、気持ちがかき乱される。。。

おそらく、「彼」のような人は日本にたくさん居るのだと思う。もちろん、犯した罪は償い、刑に服さなければならない。そのことに異論があろう人はいない。同時に、犯罪から社会を守る手立てが必要なことも論を待たない。性犯罪者の情報公開(方法は決まっていないが、ここではこの呼び方で綴っている)は、その一助になる可能性も確かに否定できない。

だが、そうした情報を手にした場合、知った場合、おそらく「彼」や「彼のような人」は、この社会では行き場が無くなる。捜査機関だけでなく、「近所」や「地域」や、場合によっては「メディア」が次々に、異物を見るような視線と好奇の目を投げつけるに違いない。「公開」が決まれば、人々は(表面上は静かでも)その情報に殺到する。「だれが前歴者だ?」「隣のあいつは大丈夫か?」と。私自身も親であり、情報が公開されれば、その情報にアクセスしようとするだろう。

たぶん、いまの社会は「性犯罪者の情報公開」に堪えうるほど成熟していないのだ。もちろん、私も含めて、である。
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by masayuki_100 | 2005-01-31 03:33 | ■社会