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ニュースの現場で考えること

スウェーデンにて

過日、出張先のスウェーデンで、60代の日本人に会った。ストックホルム在住で、九州出身の方だ。朴訥とした語り口、飾らない人柄。少し前の日本でなら、どこにでもいそうな、「お父さん」タイプの方だ。

この方は、中学、高校で美術部に所属し、将来は絵の世界で生きようと思っていた。九州の高校を出て、東京に少し居た後、友人が先に住んでいたストックホルムを目指したのだという。40年近くも前のことで、もちろん、「地球の歩き方」など、ありはしない。ストックホルムでは、まず皿洗いから、だった。

「皿洗いは言葉ができなくても、やれますでしょ。他に理由はありません。ストックホルムを選んだ理由? 友人が先に居たからですよ。本当は世界一周でもしてから、日本に戻るつもりだったんですが、そのまま居ついてしまいました」

その後、いくつか職を変え、電気関係の会社に長く勤めた。数年前、その会社を定年で退職。以後は、絵筆を抱え、北欧諸国や東欧・中欧を行き来しているという。

その方には今、いくつか希望・・・夢がある。一つは郷里で、展覧会を開くこと。もう一つは、その展覧会のために、オーロラを見ることだ。北欧に長く居ながら、本格的にオーロラはまだ見たことが無い。それを目の当たりにして、白いキャンバスに筆を走らせる。実際に見ないことには描けないし、光が天空で揺れる様を見れば、どんなに身震いするだろうかとも思う。

彼は故郷が懐かしい、と何度か口にした。同時に、これから描く絵が、「勝負なんです」とも言った。決して、大袈裟には話さない。時には聞き取りにくいほどの、小さな声。だからこそかもしれないが、「勝負なんです」という言葉に、60余年の年数を経ての、強い意思を感じた。
by masayuki_100 | 2006-09-13 03:38 | ★ ロンドンから ★