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ニュースの現場で考えること

オーマイニュースジャパン

インターネット新聞「オーマイニュースジャパン」の初代編集長に、鳥越俊太郎氏が就任したとのニュースが、あちこちで話題になっている。ネットでは読めないようだが、先日の朝日新聞には、鳥越氏の投稿も大きく掲載され、ふむふむと思いながら目を通した。

鳥越さんといえば、警察裏金問題を思い出す。忘れもしない2003年11月。鳥越さんがキャスターだったテレビ朝日の報道番組「ザ・スクープ」が、旭川中央警察署の裏金問題を文字通り見事にスクープした。警察当局におもねる姿勢が強い大手メディアには、なかなか真似のできない見事な報道だったと思う。その報道がきっかけになって、いわば後追いする形で、北海道新聞の道警裏金報道は始まった。私もかかわった北海道新聞の道警追及はその後、およそ1年半にわたって続くのだが、それもこれも、すべては、鳥越さんの番組が契機だった。

ところで、オーマイニュースといえば、「市民記者」「市民参加型ジャーナリズム」の代表格だといわれている。それはそうに違いないのだろうけれど、私の考えでは、オーマイニュースの成功は、「記事の書き手としての市民記者」というよりも、市民記者をビジネスの核に据えたところにあるのではないか、と。そう感じることがたびたびある。昨年の秋から冬にかけ、オーマイニュース(韓国)の代表、オ・ヨンホさんと3度会い、晩飯を食うなどしながら、ネット新聞の日本での可能性、将来性などをじっくり議論した。そのときにも、私は、「韓国のオーマイニュースは市民記者の<数>を確保することで成功に至った。そう判断している」という趣旨のことを言った。つまり、こういうことだ。

ネット新聞の収入源は、記事を有料にする方法では失敗する。ネット上の情報・ニュースは、「無料」が圧倒的に多いから、「有料」になると、ユーザーは途端にそっぽを向く。ならば、アクセス数全体を増やし、広告収入の増加を図るしかない。アクセス数の増加、一定程度のアクセスの確保こそ、安定したネット広告収入の基礎だ。で、オーマイニュースは、市民記者及びその近親者・周辺者こそが、安定したアクセスの基礎になっているのだ。

オーマイニュース韓国の市民記者は、現在約4万人だが、たとえば、市民記者Aさんの友人・知人が計10人、毎日、アクセスしたら、それだけで10アクセスだ。1万人なら10万アクセス。「おれの記事が載ったぞ、みんな見てくれ」と宣伝でもすれば、こうしたアクセスはもっと増えるはずだ。それも、安定的に。オーマイニュース韓国では、匿名の市民記者を認めていないと記憶しているが、そのことも、「おい、俺の記事を見てくれ」という宣伝につながりやすい。匿名だと、なかなか、そうはならない。そこもポイントだと思う。



オ・ヨンホさんに「市民記者は要するに安定読者を集める際のキーであり、ビジネスの基礎なんでしょ?」と問いかけたら、「よく見てますね」と。その他にもビジネス・キーは種々あるのだが、考えてみると、「読者の数」の仕掛けは、保険などの営業職員が、最初は友人知人親戚などにセールスをかけ、一定程度の成績を残す仕組みに似てなくも無い。おそらく、「市民記者1人で読者100人」式の発想をビジネスに仕上げたところが、オ・ヨンホさんの偉いところだと思う。「市民記者の時代」「参加型ジャーナリズム」と、よく言われるが、理念が理念でる限りは、100人いれば、100通りの理念がある。言い換えればビジネスとして成功させる(=社会で一定程度の認知を得る)ならば、冷徹に「形」「枠組み」を作らざるを得ない、ということだ。

韓国のオーマイニュースには、プロの記者が数十人いる。彼ら彼女らは、常にプロとしてニュースを追いかけ、特種を仕入れ、連発し、そして他メディアが追いかける。その結果、オーマイニュースの影響度はさらに増す・・・という形だ。一方で、プロは編集者として、市民記者のニュース原稿に手をいれ、採否を決める。市民の誰もが記者だけれど、記者が書いたものがすべてが正式に載るわけではない(正確に言うと投稿分はいったん「生木」というコーナーに全部載る)。で、その採否の理由や判断基準、種々のモノサシ類をきちんと、オーマイニュース側が説明できるかどうか。その点だけではないけれど、その部分を軸にして、市民記者とプロ、読者が縦横に噛み合った議論ができるかどうか。そのあたりが、重要になってくるのだと感じている。
by masayuki_100 | 2006-05-30 10:58 | ★ ロンドンから ★