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ニュースの現場で考えること

国民に対する思想調査に道を開く「秘密保全法案」

秘密保全法案について、再び書いておく。この法制について検討を重ねていた「有識者会議」が今年8月にまとめた報告書がある。ネットで検索すれば、すぐに引っかかるので、時間がある方はぜひ目を通してもらいたいと思う。報告書は有識者5人の検討を経てまとめたことになっている。5人には失礼かも知れないが、事実上、官僚たちの成果物と言って差し支えあるまい。

報告書を紐解いてみよう。私は法律の専門家ではないから、誤読があるかもしれないが、その点は容赦してもらいたい。まず、最高で懲役10年を科そうとする「秘密」はどこに存在しているのか。報告書によれば、(1) 国の行政機関 (2) 独立行政法人等 (3) 地方公共団体=とくに警察 (4)行政機関等から事業委託を受けた民間事業者及び大学−−の主に4つである。そして、何が秘密かを指定する権限は行政機関にある、とする。

秘密を扱う人物に対しては、あらかじめ、当該行政機関側が「適正評価」を行う仕組みになっている。「こいつに秘密を扱わせていいかどうか」ということを、行政側が自己の組織内外の構成員に対して調べるのだ。では、その人物の何を調べるのか。

人物調査の観点は(1) 我が国の不利益となる行動をしないこと (2)外国情報機関等の情報収集活動に取り込まれる弱点がないこと (3)自己管理能力があること又は自己を統制できない状態に陥らないこと (4) ルールを遵守する意思及び能力があること (5)情報を保全する意思及び能力があること などを前提として、以下のことを調べよ、と報告書は書いている。大事なところだから、ここは正確に引用しておこう。

調査事項としては、例えば、[1]人定事項(氏名、生年月日、住所歴、国籍(帰化情報を含む。)、本籍、親族等)、[2]学歴・職歴、[3]我が国の利益を害する活動(暴力的な政府転覆活動、外国情報機関による情報収集活動、テロリズム等)への関与、[4]外国への渡航歴、[5]犯罪歴、[6]懲戒処分歴、[7]信用状態、[8]薬物・アルコールの影響、[9]精神の問題に係る通院歴、[10]秘密情報の取扱いに係る非達歴、といったものが考えられる。また、対象者本人に加え、配偶者のように対象者の身近にあって対象者の行動に影響を与え得る者についても、諸外国と同様に、人定事項、信用状態や外国への渡航歴等の事項を調査することも考えられる。

これを読んだ数ヶ月前、私は心底、身震いがした。これはまさに、公務員による国民の思想調査ではないか。「秘密保全法ができても、法に違反しなければいいだけだ」「国家には秘密があって当然だ」などと言う人がいたら、よくよく考え、想像をめぐらせてもらいたい。この法案は、公務員が「国家秘密」の名の下に国民の思想調査を可能にし、国民が不可侵の領域を大規模に形成しようとしているだけではないか。それに相変わらず、報告書の文書にも「等」が多すぎ、である。思想調査に法的根拠を与えようとする法律において、こんなにも「等」を乱発して、拡大解釈を可能にしていいはずがない。しかも民間事業者等における調査は、民間事業者等にその権限を与えるのだという。本当にこわい。

報告書はこうも書いている。

対象者の日ごろの行い等を調査するため、職場の上司や同僚等の対象者をよく知る者に対して質問する必要がある場合も考えられることから、実施権者にその権限を付与することが適当である。

対象者の日頃の行い「等」を監視対象とせよ、ということだ。「あいつは反原発、脱原発だったな」とか、「彼の奥さん、カタログハウスの通販生活の愛読者だったな」とか、そんなことが「公務員による調査」の対象になるかもしれない。

報告書は「国家公務員法等において一般的な守秘義務が定められているが、秘密の漏えいを防止するための管理に関する規定がない上、守秘義務規定に係る罰則の懲役刑が1年以下とされており、その抑止力も十分とはいえない」から最高で懲役10年の刑を定めたほうがいいと書き、罰金だけの刑はダメだ、生ぬるい、とも言っている。「未遂」も「共謀」も処罰の対象だ。秘密を取り扱う者「等」に対する教唆行為、煽動行為も処罰だ。さらに、秘密保全法は国民の知る権利を侵害するものではないし、情報公開に関する一連の法理とは無関係だし、国会や裁判所についても何らかの規制が必要になるだろうという趣旨のことが書かれている。

それに何より、「何が秘密か」を指定するのが当人たちだから、原発のことも放射能のことも裏金のことも、要するに自分たちが「秘密だ」と言えば、秘密である。秘密とは全てが隠されることだから、どこにどんな秘密があるのか、それすら国民には伺い知れない。「東電の国有化に疑義あり」などと思って、「本当のことを言え」と迫ったら、「教唆」かもしれない。「本当のことを言いなさい!」とデモを計画したら、「煽動」と「共謀」かもしれない。

前回のこのブログの記事『野田内閣は本当に「やる」のか〜秘密保全法案』でも書いたが、こういう法律が出来ると、必ず「取り締まる側」と「取り締まられる側」ができる。警察は「秘密保全法違反はないか」と目を光らせる。やがては地域社会や企業などで「相互監視」の傾向が強まるだろう。そして、これも前回書いたことだが、法律は改正される。10年もすれば、制定時とはまったく違った法律になっていることも珍しくない。戦前の治安維持法が猛威を振るったのは、改正によって処罰対象が拡大された後、法の制定から約10年後のことだ。

この報告書や有識者の議論等々によると、いま日本は外国の情報機関「等」による活動によって、重大な危機にさらされているらしい。いつの時代も、国家の内部統制を強化しようとするときは、「外国の驚異」「テロの脅威」などが強調される。ヒトラーもそうだったし、北朝鮮もそうだ。しかし、本当の脅威は、情報の独占とそれに伴う思想調査、重罰まで可能にしようとする、霞ヶ関の人たちにこそあるのではないか。

霞ヶ関・永田町取材に奔走している記者の人たちが、もしこのブログを読んだとしたら、「秘密保全法っていったい何だ?」と次々に各所で疑問をぶつけてもらいたい。漫然と過ごしている場合ではない。大手報道機関の取材活動は当初、法案から除外されるかもしれないが、そんなセコイことで言を左右してはならない。残念ながらこの国では、現在のところは、大手の新聞・テレビが動かないと、政治家や役人の考えはなかなか変わらない。新聞が「秘密保全法案反対キャンペーン」を展開すれば、法案はつぶれるかもしれない。だから、(過度な期待かもしれないが)とくに若い記者たちには「頑張れ」と言いたい。そのためにも、まずは「報告書」を熟読してもらいたい。
by masayuki_100 | 2011-12-26 10:41 | ■2011年7月~